壷イメージ瞑想法  壷中天瞑想法

壷イメージ瞑想法  壷中天瞑想法
 つぎに、壷イメージ瞑想法をご紹介しよう。
 田鴬誠一氏ら医師グループの「壷イメージ療法」は有名である。しかし、これは、精神科
の医師の治療法であって、専門家以外が手を染めるべきではない。非常な危険を生ずるおそ
れがあるからである。
 私か教える壷イメージ瞑想法は、治療法ではなく、瞑想法である。しかし、そのやり方に
よっては治療効果もないとはいえない。
 中国の『後漢書』方術伝にある「壷中天」の記事をもとに、私か作った。
 また、作家の林芙美子氏が、小説『放浪記』の中で、苦しいことやいやなことが積み重な
ってくると、いくつものひき出しのついたダンスを思いうかべ、そのひき出しの一つ一つに、いやなことや苦しいことを、ぽっぽっとほうりこんで、ぱ1んと閉めて、さっぱりとした気
分になる、というようなことを書いており、そのことなども影響したかもしれない。
後漢の時代、費長房という男が、暮れがた、自宅の二階から市中を眺めていると、す
ぐ近くの小さなあばら家で、薬草をあきなっている老翁の姿がふと目にとまった。
 べつにどうということもなかっだのだが、今日は店を閉めるのがいつもより少し早いよう
だなと思ったのである。
 老翁は、店を閉めると家の中に入った。店を閉めるといっても、小屋のようなあばら家で
あるから、中から古い板きれや・、箱などを軒端に立てかけただけである。
 このとき、費長房が急に興味を待ったのは、よくその店の前を通るのだが、この老翁がい
ったいどういう人間なのか、これまでまったく知らなかったということに気がついたからで
ある。
 考えてみると、費がまだ子どもの頃たった二十数年も前から、この老翁は、いまとまった
くおなじ姿かたちで、あそこで薬草をあきなっていたような気がする。
急につよい興味を感じて、費は身を乗り出した。ヒサシの裂け目から、少し中が見えるの
である。
 --―あそこで寝泊りしているのかな?
 まだ日は暮れきらず、老翁の姿は、影絵のように淡く見える。
 じっと見ていると、老翁はふしぎな動作をした。
 戸棚の中から、一つの小さな壷をかかえ出し、古びた卓の上に置いたのである。高さ五、
六〇センチメートル、さしわたし三〇センチメートルくらいの壷である。
はて、なにをするのだろうか? あの中に食べものでも入っているのかな。
 と目を凝らしていると、老翁は、その壷の前に立ったと見るや、脚のほうから、するりと
壷の中に入ってしまったのである。
 費は思わず、目をこすった。なにか、見まちがえたのではないかと思った。小さな赤ん坊
だって、入ることなど思いもよらない。なにかの錯覚だと思って何度も見直したが、壷が一
つ、卓の上に乗っているだけで、人の姿は影も形もない。そのうち、小さな家は闇につつま
れてしまった。
 費は、腕組みをして考えこんでしまった。
 このとき、家の中にかけこんで、壷をゆすってみたり、さかさにしたりしなかったところをみると、この費長房という男は、分別のある賢い男だったといえるだろう。
 費はその夜、一晩じゅう、まんじりともせず、朝を迎えた。
二階から見ていると、老翁が出てきて、いつもと変わらず、軒さきに薬草の束や、実など
をぶら下げて、店をひらきはじめた。
 費は、時間を見はからって、店に入っていった。
  「なにか、上げますかな?」
と老翁は、白く長い眉の下の、おだやかな眼ざしで、費を見た。
「見ましたよ」
と費は単刀直入にいった。
 「見た? なにをです?」
老翁のおだやかな眼ざしは、少しも変わらない。
 「壷です。あなたは、昨夜、壷の中に入った。あれを見たのです」
老翁はじっと見ている。
 「私もあの中に入れて下さい」
老翁は苦笑した。


うべき威に打たれて、費は思わず立ち上り、両腕を組んでゆっくり上下する批手の礼をおこ
なった。
 袖の感触の妙なのを感じて、ふと見ると、なんと自分もまた、おなじような豪華できらび
やかな衣裳となっている。
 盃をとりあげると、一条の燦然とした光が眼を射、あ、夜光の盃というのがこれなのだと、
愕然とする。注がれた赤い酒をIロふくむと、全身に戦慄が走るような美味であった。それ
は酒だけではなく、ひとつひとつの料理がたとえようもない味で、老翁がいろいろと料理の
名をいって説明してくれるのだが、まったく耳にも入らなかった。かねて聞く、燕巣熊掌も
もののかずではない、と思えた。
費は、蕩然と酔った。
 ふしぎなことに、いつのまにか、昔からずうっとここにこうしていたような気持になって
いた。
 悠揚と、費は盃を手に、あたりを見まわした。
 老翁が笑いをふくんで自分を見ている。
 その顔がしだいにぼやけて、少し飲みすぎたかなと思いながら、費は、急に堪えがたい眠りりに襲われ、ゆっくりと首を垂れた。
ふと、気がつくと、費は、わが家の一室に横だわっていた。
茫然とあたりを見まわした。あの宮殿楼閣と珍味佳肴、美女たちはどこへ行ってしまった
のか?
 はね起きると、費は階段を転がり落ちるように駆け下り、薬草店の前に立った。
 薬草店は朽ち果て、老翁の姿は影も形もなかったという。

行 法
結珈践坐(又は半珈践坐)
長出大息呼吸法
長出息呼吸法
数 息 観
観 想
壷をイメージする。
自分のからだがしだいに軽くなり、やがて浮揚し、脚から壷の中に入る。
壷の中で瞑想をつづける。
費長房のような経験をするのもよいし、そのほか、さまざまな修行が考えられよう。
 無心の瞑想をして、さいごに壷から出るとき、林芙美子氏のように、すべての悩みや、い
やなことはすべて、すっぽりと壷の中に置き去って、元気はつらつとした自分になって戻っ
て来るのもよい。
注 意
  壷から出て戻って来るときは、いつの場合でも、かならず、健全、充実した自分にな
 って出て来ること。
  ごく稀だが、壷の中から出られなくなってしまう人もいるかもしれない。やはり、指
 導を受けたほうが無難であろう。